
『戦場のアリア』
Joyeux Noël
監督:クリスチャン・カリオン
出演:ダイアン・クルーガー、ギョーム・カネ、ベンノ・フユルマン、
ゲイリー・ルイス、ダニエル・ブリュール、ダニー・ブーン
****あらすじ****
1914年。第一次大戦下、フランス北部の村で本当にあった逸話。
中立地帯を挟んで、フランス・スコットランド連合軍とドイツ軍が
連日砲弾を鳴り響かせていた。兵士の数は減っていくばかり。
フランス軍のオドゥベール中尉(ギョーム・カネ)は身重の妻を
パリからランスの実家に非難させていた。もう半年も便りがない。
生まれた子供の名前どころか、性別も知らない。
スコットランド軍の加担兵として志願した神父(ゲイリー・ルイス)。
2人の息子も兵士となったが、長男は戦死してしまう。愛する兄を
見殺しにした次男は、敵のドイツ軍が憎い。
ドイツ兵として戦徴兵されたシュプリンク(ベンノ・フユルマン)は
有名なテノール歌手。恋人の歌手アンナ(ダイアン・クルーガー)は
彼ひと目見たいため、ドイツ皇帝の許可を得て、戦地で歌うことに。
やがて訪れたクリスマスの夜。
ドイツ軍には10万本のクリスマスツリーが届けられ、本部では
オペラ歌手のアンナと、戦地に赴いていたシュプリンクが皇帝の
前で歌声を披露する。悲惨な戦地と、優雅な宴を楽しむ本部。
兵士仲間にも歌を聞かせるため、塹壕に戻ったシュプリンク。
アンナも一緒だ。彼との時間を一瞬も無駄にしたくない。
スコットランド軍の塹壕から、望郷を奏でるバグパイプの音色が
聞こえてきた。和やかな雰囲気が伝わる。イヴは特別な夜なのだ。
シュプリンクが美声を披露する。すると、スコットラン軍から
歓声の拍手が。中立地帯で聴き入っている。フランス軍も降り立つ。
フランス軍、スコットランド軍、ドイツ軍の中尉3人が中立地帯に
集まった。クリスマスの一晩だけ、休戦することになったのだ。
フランスのシャンパンで乾杯する各軍の兵士達。パルマー神父が
ミサを行い、共にラテン語で祈りの言葉を捧げた。アンナの歌に
天使を見た兵士達。その晩は誰もが敵味方なく、互いに妻や子供の
写真を見せ合い、共に酒を飲み、親交を深めた。
ドイツ軍のホルストマイヤー中尉(ダニエル・ブュール)は
オドゥベール中尉に何か通じるものを感じだ。出会った状況が
違っていれば、二人は親友になっていたはずだ。
戦争が終わったら、パリで飲もうと再会を約束する。
休戦が解けた翌日。顔を知ってしまった仲のよい敵軍の兵士。
もう、撃つことができない。兄を亡くした、あの弟は別だったが。
もはや敵と戦えなくなった各軍の兵士達。解散を余儀なくされた。
軍の司令部から見れば、不祥事極まりない忌まわしい出来事。
しかし、兵士達が過ごしたクリスマス・イヴのあの晩は本当に
起きた素晴らしい夜の出来事だった。
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バグパイプの音色で歌うドイツ兵のテノール歌手。戦争中では
ありえない組み合わせだが。第一次世界大戦中に起きた実話に
基づいた話と聞いて、戦争中でも人間らしい気持ちを持つ人が
いたことに、人間は捨てたものではないと、嬉しく思った。
当時はラテン語が共通語だったことも幸いしたのだろう。
戦争中は国や軍部によって、一種の洗脳状態にあるため、分別や
常識が意味を持たず、誰もが異常事態だとは気づかない。
駒のように動かされるのではなく、生身の人間であり続けたい。
第一次世界大戦ではドイツ軍中尉だったホルストマイヤー。
ユダヤ人の彼は、20年後に立場が逆転するのかと思うと
ロシアに向かう列車の汽笛が、収容所に行く列車の汽笛に聞こえ
とても切なくなった。
戦闘シーンを極力抑え、人間の美徳な内面を描いた監督曰く
「ルソーが言うように、『地球上の人間には悪い人はいない』」と。
世の中にはカリオン監督のような人ばかりではないのが悲しい。