
Philomena
監督:スティーヴン・フリアーズ
出演:ジュディ・ディンチ、スティーヴ・クーガン、
ソフィ・ケネディ・クラーク、アンナ・マックスウェル・マーティン
公式サイト:
http://www.mother-son.jp****あらすじ****
イギリスに住む敬虔な主婦フィロミナ(ジュディ・ディンチ)は
50年間隠し続けていた秘密を娘のジェーン(アンナ・マックスウェル・
マーティン)に打ち明けた。
1952年、アイルランド。18歳で未婚のまま妊娠したフィロミナ
(ソフィ・ケネディ・クラーク)はロスクレア修道院に入れられる。
同じ境遇の少女達のうち、出産で母子共に命を落とす者もいたが
フィロミナは男の子アンソニーを生んだ。保護と引き換えに労働を
強いられわが子に会えるのは1日1時間だけ。
修道院は3歳になったアンソニーを無理やり養子に出してしまう。
以来、引き離された息子のことを忘れたことはない。
ジェーンは元BBCのジャーナリストのマーティン(スティーヴ・
クーガン)にフィロミナの息子探しの話を持ちかけた。落ち目の
ジャーナリストではあるが、モスクワやワシントンで政治問題を
扱っていた元エリート。三面記事を書くのには抵抗があったのだが
フィロミナに会って話を聞くうちに、興味が湧いてきた。社会派の
記事になりそうだ。再起をかけて、引き受けることにした。
アンソニーの行方を探すため、フィロミナとマーティンはロスクレア
修道院に行くのだが。書類は火事で焼失してしまったのこと。
ただし、「生んだ赤ん坊を放棄し、所在を探さない」という誓約書は
無事で、保管されていた。近くのパブの主人から聞いた話によると
ロスクレア修道院は金銭目当てで米国人に養子縁組をしていた。
フィロミナは息子を探すため、マーティンと一緒にワシントンへ。
息子の名はアンソニーからマイケルに改名され、共和党で大統領の
顧問弁護士になっていたが、時すでに遅し。出世していた息子に
会うことは出来ない。マーティンは既に亡くなっていた。死因は
エイズ。マーティンはゲイだった。
一旦、帰国を考えたフィロミナだが、マーティンを知る人達に会い
直接話を聞きたくなった。パートナーに会って話を聞こうとしたが
取り次いでもらえない。直接家を訪ねてみると、思わぬ事実が。
死期が近いマーティンも母を探しに、ロスクレア修道院を訪れて
いたのだ…。
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実話をもとにした作品。2009年に英国で出版された、実在する
アイルランド人の主婦フィロミナの物語 「The Lost Child of
Philomena Lee」(マーティン・シックススミス著)を読んだ
コメディアンで俳優のスティーヴ・クーガンが脚本を書き
ジュディ・デンチ とスティーヴン・フリアーズ監督が賛同し
映画化にこぎつけた。
邦題を見る限りでは、最後は50年ぶりに息子と涙の再会を期待
してしまうが。思わぬ展開に目が離せなくなる。
ジュディ・ディンチの名演。エリザベス1世役や007のM役からは
ガラリと変わり、一般市民の気の良い愛らしい隣のオバちゃんに。
純愛小説が大好きで、カバンの中には常に飴やお菓子がたくさん。
世間ズレしていないフィロミナとエリートで皮肉屋のマーティン。
共通点が全くない対照的なふたりの掛け合いが面白い。
英国からアイルランド、そしてアメリカへの旅の話でもある。
アメリカに着き、これから息子を探そうという時に急に今の息子の
姿が不安になったフィロミナのくだりが面白い。
「もし息子が麻薬常用者だったら?戦死していたり、肥満だったら?」
「だって、(食事の量が多い)アメリカ育ちよ!」
偶然にも以前、マーティンがホワイトハウスで息子に会っていたと
知った時のフィロミナの表情が素晴らしい。
「何を話したの?」
「『こんにちは』」
「『こんにちは』ね♡」
「『やあ』だったかも」
「すごいわ♡」
コメディーなシーンなのだが、画面いっぱいに映るフィロミナの
嬉しそうな笑顔を見ると、ジーンとしてしまう。
再び修道院に戻ったフィロミナの言動は聖人さながらで驚かされる。
許すのは苦痛を伴うこと。それでも、許す。中々できないことだ。
気のいい隣のオバちゃんだと思っていたフィロミナよりも修道女の
方が俗物的な考え方を持っているように思えてえてしまう。酷い
仕打ちは全て、やっかみや嫉妬心のせいではないか、と。
カソリック教会を真っ向から非難する、社会派の作品にもできた。
息子を思い続けたフィロミナをテーマに、涙を誘う作品にもできた。
そこを、折り合わなさそうな対照的なコンビのコメディの効いた
ロードムービーに仕上げるあたり、コメディアンのスティーヴ・
クーガンの脚本とスティーヴン・フリアーズ監督の手腕のたまもの。
見終わって直後よりも、時間が経ってからの方が印象深くなる
作品だった。