『レ・ミゼラブル』

Les Miseràbles
監督:トム・フーパー
出演:ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、アン・ハサウェイ
アマンダ・セルフライド、エディ・レッドメイン、サマンサ・バークス
ヘレナ・ボナム=カーター、サシャ・バロン・コーエン
公式サイト:
http://www.lesmiserables-movie.jp****あらすじ****
1815年。1本のパンを盗んだ罪で投獄されたが何度も脱獄を計り
19年間をトゥーロンの監獄の中で生きた囚人番号24601のジャン・
バルジャン(ヒュー・ジャックマン)。やっと仮釈放の身になった。
看守のジャベール(ラッセル・クロウ)から渡された身分証には
「危険人物」と書かれていた。一生ついて回る過去の罪。
仕事をするにも、宿に泊まるにも身分証を要求される。
もはや、まっとうな人生は送れない。仮釈中は指示された場所に
支持された日時に出頭しないと、また監獄行きだ。逃亡を図った。
ある晩、教会の脇にいたバルジャンを司教が招き入れた。
食事と寝床を与えられたバルジャン。だが、翌朝には教会の銀食器を
盗んで出て行ってしまう。窃盗容疑で捕まったバルジャンに司祭は
「すべて彼にあげたものだ」と彼を擁護する。しかも、銀の燭台を
「よきことにつかいなさい」と差し出した。司祭の優しさに触れ
心を入れ替え正しく生きようと決意するバルジャン。
身分証を自ら破り捨て、人生の再出発を図る。
4年後。過去を捨てたバルジャンは、マドレーヌと名前を変え、工場を
営み成功し、モントルイユ=シュール=メール市長に上り詰めた。
そこへ、ジャべール警部(ラッセル・クロウ)が赴任の挨拶に来た。
焦るマドレーヌことバルジャン。正体はバレていないが怪しまれた。
法の番人のジャベールはマドレーヌ市長がバルジャンだと確信した。
逃亡犯ジャン・バルジャンを逮捕すべく、策を練った。
マドレーヌ市長の工場ではフォンティーヌ(アン・ハサウェイ)という
女工が働いていた。娘のコゼット(イザベル・アレン)をテナルディエ
夫婦(サーシャ・バロン・コーエン&ヘレナ・ボナム=カーター)に
預けていたのだが、養育費をせびられ借金が膨らんでいた。
他の工員といざこざを起こし、解雇されられてしまう。
娘の養育費のために自慢の長い髪を売り、歯を売り、果てには
売春婦になり身を売るフォンティーヌ。ジャベールに逮捕されそうに
なるところをマドレーヌ市長に助けられる。フォンティーヌがかつて
自分の工場の工員で解雇されたと知り、責任を感じたバルジャンは
フォンティーヌの娘コゼットを引き取り、立派に育てると約束する。
ジャベールから、仮釈放の身で逃亡したバルジャンが見つかり
裁判にかけられると報告をうけたマドレーヌ市長ことバルジャン。
だまっていれば、逃げ切れるが。無実の罪で自分の犠牲になる者が。
出頭すれば雇っている工員たちは路頭に迷う。結局、裁判の場に
現れ、自らの正体を明かして告白するが。逃亡を図る。
1823年のクリスマス。テナルディエ夫婦にこき使われ、独りで森に
水汲みに行かされていたコゼットを見つけたバルジャン。
安宿を営み、法外な値段を客に突き付けていたテナルディエ夫婦は
何かにつけて金をせびり取る。テナルディエの言い値でコゼットを
引き取り、パリへ向かう。
1832年。テナルディエ夫婦はパリで安宿を営み、悪事を働いていた。
娘のエポニーヌ(サマンサ・バークス)は、お坊ちゃん風な宿泊客
マリウス(エディ・レッドメイン)に片思い。だが、素直になれない。
一方のマリウスは美しく成長したコゼット(アマンダ・セルフライド)を
一目見て恋に落ちた。コゼットもマリウスに心を奪われる。マリウスは
アンジョルラス(アーロン・トヴェイト)をリーダーとする結社の一員で
ラマルク将軍を崇拝する労働者や学生たちと決起し、暴動を起こそうと
計画していた。仲間を取るか、恋を取るか。悩む。
ラマルク将軍が亡くなり、葬儀の列に加わったマリウス達。
バリケードを築いて暴動を起こす時が来た。
ジャベールがバリケードに忍び込んだのだが、ガヴローシュに正体を
明かされ、捉えられた。
マリウスからコゼットへのラブレターを言伝されたバルジャン。
ついに恐れていた時が来た。逃亡生活を送りながら、正体を明かさず
大切に育ててきたコゼット。恋人ができ、結婚すればバルジャンの
役目は果たされる。まだ手放したくない。マリウスがどんな男か
見ようと、バリケード内に入るバルジャン。思わぬ所でジャベールと
再会した。立場は逆だ。ジャベールは殺されるのを覚悟したのだが
バルジャンは空砲を撃ち、ジャベールを逃がした。
バリケードが襲撃された。バルジャンは傷を負ったマリウスを助け
下水管を通って逃げた先にはジャベールが。ただ、ジャベールは
バルジャンを撃つことも捉える事も出来なかった。
法の番人で、正義を貫き、悪事には容赦ないジャベールだが。
惑いが生じた。悪人だと思っていたバルジャンに助けられた。
悪人というより、むしろ聖人だ。やりきれなくなったジャベールは
セーヌ川に身を投じる。
マリウスからコゼットへの求婚の許しを与え、身を引いたバルジャン。
最期の時が近づいていた。そこへ、結婚式を終えたマリウスと
コゼットが駆け付けた。ウエディングドレス姿を見たバルジャンの
横には、天使フォンティーヌがいた。
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全編、出演者による生歌と聞き、大いに期待して見に行った。
帝国劇場やロンドンのパレスシアターで見た時の感動を再びと思い
期待し過ぎた。ミュージカルとミュージカル映画は似て非なり。
現場の臨場感や緊張感を楽しめるミュージカルの方が断然良かった。
ギャガの予告編の方がミュージカルに近く、本編よりも良かった。
カメラワークやカット割りを凝らせば、映画ならではの素晴らしい
作品になったろうに。マリウスが仲間の死を悔やみ悲しむシーンは
本当にいただけない。あれはワンテイクの長回しで撮った方がいい。
アップのカットが多すぎるのも気になった。オペラグラスがあれば
ミュージカルでもアップは見られる。
♪Do you hear the people sing, singing a song of angry man?♪この曲が『レ・ミゼラブル』の重要なテーマだと思っていたのだが。
映画ではラブストーリが大きく前面に出ていた。
フォンティーヌの歌の後に民衆の歌が来るのに、来なかったのが
違和感があった。1985年ロンドン録音のCDを聴き込んでいるので
曲順が違うだけで変な感じがしてしまう。
ヒュー・ジャックマンは上手い。数年前のアカデミー賞授賞式の司会を
務めていた彼がミュージカル映画に出演したいのに依頼が来ないと
嘆いていたのを思い出す。本作は代表作になるだろう。
冒頭のシーンでは痩せこけていて分かるまでに時間がかかった。
アン・ハサウェイも上手かったが、フォンティーヌのイメージとは
やや違っていたような。声が細く高過ぎる。最後の天使役は
とても美しく、感動を呼ぶ。
私の心に最も響いたのは、ジャン・バルジャンが最期を迎える時に
現れた、彼を助けた司祭の歌。知らないうちに涙腺が緩んだ。
ジャべール役のラッセル・クロウが意外にも甘い声。私のイメージは
もっと低くて太い声なのだが。映画の中では解釈が変わった。
暴動を起こす若者を青二才と呼ぶジャヴェールこそ、世の中をあまり
よく分かっていない青二才に思えた。正義と現実を受け入れられず
あのような結果になったのだろう。
サーシャ・バロン・コーエンとヘレナ・ボナム=カーターと演じる
テナルディエ夫婦は良かった。ヘレナ・ボナム=カーターはどんなに
エキセントリックで下品な役を演じても、いやらしく見えないのは
持って生まれた気品のせいなのだろうか。強烈な個性を放っていた。
サーシャ・バロン・コーエンも力が入りすぎるミュージカル映画の中で
いい感じに力が抜けていて、悪人を愛すべき人物に好演していた。
マリウスの仲間で、一声でミュージカル出身と分かる役者がいた。
声の質が全く違う。彼がマリウスの役だったら、ミュージカル映画と
して楽しめたかもしれない。
ガブローシュ役の少年もよかった。ガブローシュの歌を聴いて
いると、舞台はロンドンの下町かと勘違いしそうだ。余談だが
1987年に帝国劇場で見た時は、山本耕史がガブローシュ役を演じて
いた。ガヴローシュ役の少年は今後有名になるだろう。
教会で民衆の歌がラテン語で歌われているシーンは良かった。
ミュージカル映画が好きな人なら楽しめる作品ではあった。
ただ、ミュージカルの『レ・ミゼラブル』が好きな人にはどうだろう。
新しい解釈と思うだろうか、やはりミュージカルの方がいいと思うか。
私は残念ながら、後者の方だった。