
『人生はビギナーズ』
Beginners
監督:マイク・ミルズ
出演:ユアン・マクレガー、クリストファー・プラマー
メラニー・ロラン、ゴラン・ヴィシュニック
公式サイト:
http://www.jinsei-beginners.com****あらすじ****
38歳独身のアートディレクター、オリヴァー(ユアン・マクレガー)は
厳格な父(クリストファー・プラマー)から、ある日突然、「私は
ゲイだ」とカミングアウトされた。44年間連れ添った母が亡くなり
癌を宣告された父。「これからは本当の意味で自分を楽しみたい」
カミングアウトをきっかけに、若々しいファッションに身を包み
ゲイパーティーやゲイサークル活動に精を出し、若い恋人(ゴラン・
ヴィシュニック)を作り、人生を謳歌する父。既に病状は進行し
末期癌なのに。なぜか明るく生き生きとして、幸せそうだ。
以前の父とは全く違う。
一方のオリヴァーは父の変化に戸惑うばかり。父から引き取った
愛犬アーサーが話し合い手だ。父の恋人とも距離を置いていた。
父が母よりも自分よりも愛情を注いでいる恋人とは接しづらい。
アーサーは付き合う恋人と長続きせず、気まずくなったらいつも
自分から分かれてしまう。子供の頃、父と母がどこか白けたような
関係に見えたのが後を引いているのだろうか。奔放な母と厳格な父。
似た者同士の方が合うのだろうか。
父との語らいが増え、色々な話をした。オリヴァーは父も親や母との
距離に葛藤を抱えながら生きていたことを知る。そして、なぜいつも
母が悲しそうだったのか、やっと分かった。
父との永遠の別れが来てしまった。悲しみに暮れて仕事も手に付かず
「SADS」というバンドのアルバムジャケット制作で肖像画を頼まれても
悲しい顔の歴史を書いてしまう程落ち込んでいた。当然、仕事は没。
自分の殻に閉じこもってしまったオリヴァーを心配した仕事仲間は
仮装ホームパーティにオリヴァーを無理やりに連れ出した。そこで
風変わりなフランス人のアナ(メラニー・ロラン)と出会う。人と距離を
置きながら生きてきた女優のアナ。似た者同士のふたりは惹かれあい
幸せな日々が続く。アナは父を亡くしたオリヴァーの喪失感を優しく
癒してくれた。
アナがオリヴァーの家で暮らし始めてから、今までと何かが違って
きた。スーツケースに入れた服をまだチェストに移さないアナ。
何となくギクシャクしてしまうふたり。まるで、昔の父と母のよう。
またしても、オリヴァーは独りになることを選んでしまう。
昔のように、またひとり。愛犬アーサーと取り残されたオリヴァー。
だが、今度は違った。アナとやり直そう。アーサーを父の恋人に預け
アナのいるNYに向かったオリヴァー。ところが、アナは不在だった。
まだ、オリヴァーの住むLAにいたのだ。
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なぜ、「ビギナース」という題なのか不思議に思っていたが。
見てから分かった。愛することの初心者。
緩い雰囲気で、ユアン・マクレガーの甘い低音のナレーションが
心地よい。BGMや効果音が少ない分、自然と映像に集中させられる。
一見、何でもない風景が見事に計算されて作られていた。
オフィスの黄色い壁のシーンのハッとする色と配置バランスの妙。
駅のアーケードやホテルの廊下など、左右対称の背景の美しさ。
部屋のインテリアと窓と観葉植物の位置関係。どの場面も絵になる。
さすが、元アートディレクターのマイク・ミルズ監督。
久しぶりに見た映画が、いい映画だったと思える作品でよかった。
愛くるしい愛犬アーサーを演じた犬がパルムドッグ賞の受賞を逃し
非常に残念だが、父親役を演じたクリストファー・プラマーは見事
アカデミー助演男優賞を獲得。おめでとう。